農民の主体的な学習を通じた持続的な自然資源管理

森林と自然資源減少の負のスパイラル
エチオピアでは、人口の増加にともない、人々は食料を得るために新しい農地を求めてまだ木々が豊かな土地を開墾し、農地を拡大して行かなければなりませんでした。かつては野生動物が豊富で鬱蒼としていた樹林帯も農地や採草地に変わってきました。雨の少ない半乾燥地では失われた植生の回復は遅く、当初は人々に守られて農地に点在していた有用樹種も、年がたつにつれて放牧などを理由に更新することが少なくなり、村落の風景から次第に木々が消えていきました。
それにともなって煮炊きに使う薪もだんだん採集できなくなり、燃料は乾燥させた牛糞に置き換わってきています。長年の収奪によって農地の地力も低下してきますが、牛糞などが肥料として投入できなくなることにより、劣化した農地の生産性を自前で改善することが困難になり、化学肥料を使うことによって収量は上がるものの、その支払が逆に家計を圧迫していきます。
このように何年もかかってゆっくり進んでいく環境の変化というものは、貧困の中にある零細な農家の人々の目には見えにくく、気がついたときにはそこからなかなか抜け出せない状態に陥ってしまいます。地域の農民がこれらの悪循環から抜け出すためにはどうしたらいいのでしょうか。
零細農民が自分自身で何か新しいことを始めるための支援

しかし、貧困の中にある零細な農家には、通常このような新しい試みが簡単には実践できません。新しいことを試してみるための土地がなかったり、そのための資材を買うお金に余裕が無かったりといった、様々な障害があるからです。同時に新しい知識を得ても、余裕のない生活の中でそれを達成できる見通しも持てず、またやり遂げる自信も持てないからです。これらの多くの農家が持つ技術的で資源的で心理的な複雑な問題を解決し、新しい試みを自ら実践してもらうために、プロジェクトではFAOが開発した参加型学習の手法であるファーマーフィールドスクール(FFS)の枠組を活用しています。
一つの枠組から生まれる、たくさんのポジティブな変化
農民がグループで自ら主体的に運営していくFFSの学習プロセスを通じて、さまざまな成果、新しい展開が報告されています。
- 長く継続的な交流が行われることにより、政府職員と農民のパートナーシップが改善・向上します。また、それぞれの間で対立がある場合はそれを緩和する契機となります。
- 参加した農民はグループ活動の実践を通じて組織運営の手法を学び、農民の組織化や農民組織の強化が起こります。
- FFSの参加者を男女同数に制限しているために、女性の参加が促進され、女性の意識改革や、積極的な発言や活動が醸成されます。(SDGsゴール13.bに寄与)
- 学習を通じて知識が豊かになり、実習を通じてチャレンジと成功体験を積み重ねることによって農民の中に自信が生まれ、新しい試みを自分で試してみる積極的な態度に変わります。
- このようなエンパワーメントのプロセスを通じ、自らの能力に目覚め、自信を取り戻した農民によって、新しい農業技術の活用や、植林のような新しい活動が農家自身の手で実践されてきています。その適用率はある調査では80%を越えていました。
- 改善された農業技術の活用や新しい作物・生産活動の実践によって、収量や収益、生計が向上し、農家に経済的な余裕が生まれてきます。それはまた自信にもなり、さらにまた新しい活動をサポートしていきます。(SDGsゴール15.9に寄与)
- 組み合わされた苗木の生産や樹木の植栽を通じて、植林や環境保全に対する意識が高まり、自然資源の回復や森林造成に対する活動が活発化します。(SDGsゴール15.2に寄与)

FFSを通じたグッドプラクティスの標準化と制度化による広域展開へ
プロジェクトではこれらのFFS実施の枠組を、できる限り現行のエチオピア政府の政策と普及システムに沿って実施してきました。FFSを通じた農民の大きな変化とそれがもたらすインパクトは、次第にオロミア州の農業政策担当者にも大きな驚きをもたらし、今このシステムを州の農林業普及の標準として広域に展開していく試みが始まっています。FFSの実践地域はすでにプロジェクトの対象地域以外の周辺県や、遠く離れた県でも試みられるようになってきており、プロジェクトではこれらFFS広域化の試みがオロミア州政府によって継続されていくように、その制度化に対する支援を継続しています。
本件に関する外部リンク先:
https://www.jica.go.jp/oda/project/1100498/index.html
https://www.jica.go.jp/project/ethiopia/005/index.html