漁村振興を担う水産行政官と漁民リーダーの育成

対象地域の現状と問題点(背景)
国際農業食糧機構(FAO)が掲げている「責任ある持続可能な漁業の促進」と「コミュニティ参加による漁業管理の推進」は、近年の世界的な水産開発の重要課題です。この課題に基づき、様々な水産開発プロジェクトが行われています。しかし、漁村コミュニティが抱える課題を的確に分析して、漁村振興事業に重点を置いている開発途上国はまだ少数です。政府や企業の施策や意向に合わせて、漁港や水産市場などのインフラ整備が優先されているのが現状です。
上記の重要課題に取り組みながら、漁村の所得向上や生計改善を効果的・効率的に達成するためには、漁村コミュニティが抱える課題やニーズに配慮して、コミュニティが主体的に参加する開発プロジェクトの実施が重要です。
そのため、途上国現場の漁村振興を担う水産行政官の育成が「鍵」となります。このような水産行政官が持続可能な漁業活動を指導できる能力を身につけて、住民参加による適切なプロジェクトを実施することが求められています。
ICNの仮説と取り組み

日本では400年以上前より、漁村コミュニティの参加による持続可能な漁業活動が実践されて、コミュニティと地域行政が協力して水産資源を管理する、「共同管理制度(Co-Management)」が確立しています。地域社会の特性に合わせた、多様な漁村の生計向上や村おこしも取り組まれています。
本研修では、このような活動を実践している日本に、途上国の水産行政官を研修員として招聘して、研修を通して実務能力の向上を目指しています。研修員は、まず様々な日本の沿岸漁業管理や漁村振興の実践モデルを学びます。次に、制度分析・組織強化(ID/OS)やプロジェクト・サイクル・マネージメント(PCM)の参加型手法を習得し、自国の現状を踏まえて、漁村コミュニティ開発のプロジェクト案を「アクションプラン」を作成します。帰国後は、自国でそのプランを実施して、現状の改善を目指します。
研修で作成したアクションプランのフォローアップの実施
本研修では、研修員が帰国した後のフォローアップを丁寧に実施していることが特徴になります。研修時の指導教官が2週間ほど研修員の国に出向いて、事後研修を行っています。事後研修では、指導教官が帰国研修員のアクションプラン実践の進捗状況を把握して、さらに研修員と一緒に漁村コミュニティの現場を訪れて、参加型の社会経済調査やワークショップを実践します。こうした結果を踏まえて、より漁村コミュニティの現状を踏まえたアクションプランの見直しを指導しています。このように、現地のニーズに最大限寄り添った取り組みを帰国後も積極的に支援しています。
取り組みの成果

今後の展望
立ち上げ時から当社が携わっているこの研修事業は2017年度で終了となります。しかし、研修の基本概念は、新規のJICA課題別研修「食糧安全保障と貧困撲滅のための持続可能な小規模漁業」に引き継がれる予定です。水産研修事業を継続することで、開発途上国での漁村コミュニティ主体の沿岸漁業振興と生計向上支援に貢献することが期待されています。